月の絆~最初で最後の運命のあなた~
家に辿り着くと、息が上がって目に涙が滲んだ。
慌てて鍵を取り出したけど、鍵穴になかなか刺さらないくらいパニックになり、あたしは冷静さを失っていた。
ようやく鍵が開いて、中に駆け込んだあたしは、鍵を閉めて玄関にへたりこむ。
家族が留守で幸いだった。
こんなこと位で、家族に不安をもたらしたくない。
不安や恐怖を味わうのは、あたし一人だけで十分。
何度も深呼吸して、どうにかパニックと呼吸を落ち着けようとしたけど、逆に気分が悪くなってきた。
『何かあったら、僕に電話するんだよ。迷惑かもなんて考えずに』
ふっと、以前レンに言われた言葉をあたしは思い出した。
その言葉に甘えて、電話してみようかと思った。手は勝手に鞄の中にある携帯電話を探し当てている。
鞄の中にはあまり物はないから、固い機械の感触はすぐに分かった。取り出すと、短縮3番を押す。
そうすれば、一度も自分からはかけた事のないレンの携帯に繋がる。
彼は、優しい言葉をかけてくれるだろう。
もしかしたら、すぐに駆けつけて抱きしめてくれるかもしれない。
誰も手出しの出来ない冷たくて、鋼のように強い腕の中に。
そう考えて、あたしは携帯電話の電源を切った。