月の絆~最初で最後の運命のあなた~



[4]


 仕事を終えて自宅に落ち着いた狼呀は、酷く落ち込んでいた。


「俺とした事が……名前を聞きわすれるなんて」


 常に抜かりのない性格の狼呀だが、今日に至ってはめちゃくちゃだった。


 出会えただけで嬉しすぎて、段取りなんて無いに等しい。


 初対面であれでは、次からは警戒されて名前どころか、話すら出来なくなりそうだ。


 自然と狼呀は唸り声を漏らした。


「何を一人で、ぶつぶつ言ってんだよ」


 スウェットのパンツしか穿いていない半裸姿で、ビールを片手に奥から親友でもある香月瑞季(こうつき みずき)が出てきた。


 甘いマスクの瑞季は、常に女に不自由しない。


 バーに入れば数分で周りを女が囲み、朝まで同じ時間を共にする。


 一方、狼呀はそういうタイプではない。





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