月の絆~最初で最後の運命のあなた~



 数秒後、森の中からジーンズに、ぴったりとした黒いTシャツ姿の男が現れた。


「彼女、足を怪我してるから運んであげて」


「わかった」


 野生の獣を思わせる優雅な動きであたしの前にくると、軽々と抱き上げた。


 なんだか、最近はよく抱き上げられる機会が増えた。


「あ……ありがとうございます。お手数をおかけしてすみません」


 なんだか申し訳なくなってお礼を言うと、響夜と呼ばれていた男は驚いた顔をしてから、歩きだした。


「いや……気にするな」


「そうそう。気にしない、気にしない。男なんて、荷物持ちくらいでしか役にたたないんだから」


 あたしには聞こえなかったけど、くすくす笑う彩華さんに、ぶつぶつと小さく男は文句を言った。


 そんな軽いやり取りに、少しだけ緊張がとけたのか、実感しはじめた寒むさに体が震えてきた。















 
< 281 / 356 >

この作品をシェア

pagetop