月の絆~最初で最後の運命のあなた~
数秒後、森の中からジーンズに、ぴったりとした黒いTシャツ姿の男が現れた。
「彼女、足を怪我してるから運んであげて」
「わかった」
野生の獣を思わせる優雅な動きであたしの前にくると、軽々と抱き上げた。
なんだか、最近はよく抱き上げられる機会が増えた。
「あ……ありがとうございます。お手数をおかけしてすみません」
なんだか申し訳なくなってお礼を言うと、響夜と呼ばれていた男は驚いた顔をしてから、歩きだした。
「いや……気にするな」
「そうそう。気にしない、気にしない。男なんて、荷物持ちくらいでしか役にたたないんだから」
あたしには聞こえなかったけど、くすくす笑う彩華さんに、ぶつぶつと小さく男は文句を言った。
そんな軽いやり取りに、少しだけ緊張がとけたのか、実感しはじめた寒むさに体が震えてきた。