月の絆~最初で最後の運命のあなた~




「おい、絢華。急いだほうがよさそうだぞ」


 あたしの様子が変なことに気づいた彼は、歩く速度を速めた。


 でも、意識を保っているのが難しくて、あたしは暗く冷たい闇へと落ちていった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 闇へと落ちる瞬間、心は冷たく何も感じなくなったけど、今は違う。


 香りのいいバターに、香ばしいパン。


 肉が焼ける匂いが漂ってくると、あたしのお腹は不満の声をあげた。


 肌に感じる暖かさもそうだけど、多くの誘惑に抗えなくて目を開けると、すぐに痛みが襲ってきた。


「目が覚めた?」


「あ……はい、絢華さん」


 体を起こして声のした方を見ると、焼きたてのパンをお皿に並べる絢華さんと目が合った。


 なんだか恥ずかしい。


 こんな状況でも、お腹が空くなんて。


「足の治療は終わってるから、体力を戻すために食べないと……こっちに座れる?」


「あの……大丈夫だと思います」


 痛みはあるけど、動かせないって程じゃない。


 あたしは寝かされていたソファから、ゆっくりと立ち上がり慎重に足を動かした。





< 282 / 356 >

この作品をシェア

pagetop