月の絆~最初で最後の運命のあなた~
「おい、絢華。急いだほうがよさそうだぞ」
あたしの様子が変なことに気づいた彼は、歩く速度を速めた。
でも、意識を保っているのが難しくて、あたしは暗く冷たい闇へと落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
闇へと落ちる瞬間、心は冷たく何も感じなくなったけど、今は違う。
香りのいいバターに、香ばしいパン。
肉が焼ける匂いが漂ってくると、あたしのお腹は不満の声をあげた。
肌に感じる暖かさもそうだけど、多くの誘惑に抗えなくて目を開けると、すぐに痛みが襲ってきた。
「目が覚めた?」
「あ……はい、絢華さん」
体を起こして声のした方を見ると、焼きたてのパンをお皿に並べる絢華さんと目が合った。
なんだか恥ずかしい。
こんな状況でも、お腹が空くなんて。
「足の治療は終わってるから、体力を戻すために食べないと……こっちに座れる?」
「あの……大丈夫だと思います」
痛みはあるけど、動かせないって程じゃない。
あたしは寝かされていたソファから、ゆっくりと立ち上がり慎重に足を動かした。