月の絆~最初で最後の運命のあなた~
「瑞季!」
アルファの伴侶に対する保護本能に火がつき、瑞季が変身しそうになっていた。
今夜は、満月。
いつもなら、すでに地下に潜っている時間だ。
「やめろ、瑞季。今すぐ地下に向かえ」
「だけど、おまえとマリアちゃんを残しては……ぐっ!」
瑞季は苦痛に、顔を歪めた。すでに声帯が変化しはじめたのか、唸り声に近い音が口からもれた。
このままでは、この場所で変身して、とんでもない事が起きる。
オオカミシフターどころか、マリアまで巻き込まれてしまう可能性がある。
「お願い、冬呀。行かせて」
マリアの声も気になったが、狼呀は瑞季をなだめながら近づいた。
すでに瞳は蜂蜜色に輝き、手は人狼のものに変わりはじめている。
「大丈夫だ。お前は、自分のことだけ考えろ、瑞季」
視界の片隅で、マリアと冬呀が何かを話しているが、人狼の耳でも聞き取れない。
だけど、冬呀はマリアから手を離し、オオカミたちが不満そうな声をもらしながら下がっていく。
「狼呀! あなたも早く」
駆け寄って来たマリアを抱き締めたかったが、瑞季を車に乗せるので精一杯だった。
「マンションに急いで!」
冬呀と何を話していたのか、狼呀は突き止めたかったが、夜までにマンションに着かなければならない。
何も話さず、瑞季の苦痛の声だけをBGMに狼呀は車を走らせた。