女神の災難な休日
私は色んなものと共に後部座席で転がりながら、そう叫んだ。それでも眠る息子の体をがっしり掴んだあたり、自分でも母親になったのだなあと思ったのだけれど。
「え!?」
低い叫び声が聞こえて、運転席にいる男がチラリとバックミラーを見る。
「ひ、人が乗ってたのかっ!?嘘だろ!?」
私は何とか体勢を立て直しながら、いまだ眠る息子を押さえつけたままで叫び返した。
「嘘だろはこっちの台詞でしょうがっ!!あんた勝手に人の車に乗ってきて何考えてんのよ!」
いきなり怒鳴ったのが効いたらしい。すこしばかり車のスピードが落ちたように感じて前を見ると、運転席の男とバックミラーでバッチリ目があった。
真冬に汗だくの顔で、青ざめているように見えた。まだ若そうな男だ。二重の瞳が挙動不審にキョロキョロと動いている。
「・・・いやあ・・・だって誰の姿も見えなかったから・・・」
「子供のオムツ替えてるのよ!!誰も乗ってないのにエンジンつけっぱの車があるわけないでしょうが!バカじゃないの!?」
というか、絶対バカだ。それは間違いない。だって常識ある一般市民はこんなことはしないはずだ。
腹立ちついでにとりあえず罵りまくってやった。何なのだ、このバカ野郎は!?そこでようやく雅坊が起きたようで、ふえ・・・という泣き声を聞いた私はハッとする。