女神の災難な休日


 まさか。それが最初に考えた言葉だった。

 だって、まさか、でしょ。そんなこと今時する人がいるんだ。しかも、右も左も判らないような中学生がやるんじゃない、立派に成人した男がそーんなちゃっちい強盗を!?この年末のくそ忙しい時に!?そう思ったんだった。

 私の沈黙を、彼は私が恐怖を覚えた、と解釈したらしかった。いきなり運転席で言い訳を始める。

「大丈夫だ、誰も傷つけてない!金を貰って出てきたら、この車があったから―――――」

「バッカじゃないの!」

 たまらずに、吐き捨てるようにいってやった。運転席の男は口をあけたままで話を止める。

「大の男がこの忙しい年末に、なーにバカなことやってんのよ!それだったらそれで、自分の足でにげりゃあいいでしょうが。あんた判ってるの?私と子供を巻き込んだことで、ただのコンビニ強盗が、今や立派な誘拐監禁事件もプラスされてるのよ!」

「え」

 一言呟いて、ヤツは更に顔色を悪くする。

「いや・・・だって、ちょっと遠い駅まで乗せてもらうだけで・・・」

「勝手に運転してるじゃないのよ!それに遠い駅って何よ、隣町ってのはどこいったの!」

 後部座席で距離が開いているのにある程度の安心を得て、私はぎゃんぎゃん喚く。ヤツはそれで心証を悪くしたようだったけど、ムカついていたから構わずに言ってやった。今の感じだと、この強盗犯は肝っ玉の小さいやつらしいから、言いまくれば一人で逃げてくれるかも――――――――――


< 18 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop