女神の災難な休日
「そうだった。俺はこっちの用事を全部放り出して君のために沖縄まですっとんで行ったのに、会うなり君は帰れと言ったんだったな。あれは俺が今までに貰った優しい言葉の中でもピカ一だったっけ」
「そうそう、あなたは元パートナーの失踪事件もほったらかしで、妻と約束した子供の世話もほったらかしだったのよねえ」
「全部君を優先した結果だろ?」
「頼んでないでしょうがよ」
「優しさを理解しないとは」
「そういうのを押し付けって言うのよ」
彼が唸った。
勿論私も唸る。
腕を組んで不機嫌な顔で、夫婦で威嚇しあっていた。だけどその内にバカバカしくなってやめたのだ。折角久しぶりに家族3人で晩ご飯を食べた日に、何で嫌味の応酬をしているのよ、と気付いたのだ。
「ま、とにかく」
私は空気を変えようと手をヒラヒラ振った。
「今年は沖縄には帰らないことにするわ。あなたのお母さんに予定を聞いて、一緒に過ごそうかな」
「了解」
彼は肩をすくめただけだった。そしてテレビを消して、和室でプレイマットに転がっている息子の相手をしにいってしまう。私はため息をついてシンクに向き直った。
・・・そうか、もう年末のこと考えなきゃなのか。