* 竜の眠る国 *




「……そう。素敵なお祖母様ね。


 では、私は一度城に戻ります。
 あなたはゆっくり見ていなさい」


「逃げないでね」なんて冗談めかして言うから、私は笑ってしまった。



「薔薇を見ていたいからここにいるわ」


 それを聞いた彼女は笑い、来た道を戻っていく。



 私は、薔薇道をゆっくり進んだ。


 両サイドに色とりどりの薔薇が並んでいる道を歩いていると、薔薇の甘い匂いに包まれ、時々足を止めた。



「いい香り…」



 その時、鳥の鳴き声がした。


 空を見上げると、雲一つない青空が広がっていて。
 ふと、薔薇の香りに包まれながら庭で眠りについたのを思い出した。




 ……ママによく怒られたな。


 お祖母様は呆れて、カインとパパはいつも笑ってた。



 薔薇に囲まれていると、自分のいた世界を次々と思い出してしまって………気付けば、涙が止まらなくなっていた。


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