* 竜の眠る国 *




「……あの湖に生き物がいないなんて嘘よ。

 大きな何かが、私に巻き付いてきたもの」



 私の話を聞いた男の表情が、変わった。



「何を見た」


 ぐっと顔を近づけ聞いてきた男に、私は慌てて距離を取る。……が、逃がすまいと腕を掴み引き寄せられた。



「ちょっ ちょっと!」

「教えてくれ。

 あの湖は我が国の古よりの聖なる湖だ。

 王族以外であの湖に入った者は生きていけない。
 生きていけるのは、生まれた時から湖の水を飲んでるこの森の動物達と王族だけ。だから、神官以外湖に入ることは掟で禁じられている」



 生きていけない…?



「そんな……だって、この湖に連れてきてくれたのは動物達よ?
 彼等は何も言ってなかったわ。

 それに、歩き疲れて水浴びしようと中に入ったけど……何ともなかったし。

 ……蛇の化け物に襲われた、以外は……」



 あの蛇のような生き物に足を取られなければ、この人にも捕まらなかったのに……


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