先輩
タイトル未編集

わたしがすきになったのは、2つ年上の先輩でした。



蒸し暑い夏の日。

その先輩は軽音楽部室の前の廊下にいた。

肩にはベース。右手にはピック。

それがはじめて見た先輩の姿。

はなしかけてくれたのは、先輩のほうからだった。

「新一年生か。勉強がんばれよ」

たったこれだけの会話。

でも、わたしにとってはこれもひとつの大切な思い出。



先輩はわたしを名字で呼び、わたしは先輩と呼んでいた。

でも、いつからか先輩は下の名前で呼んでくれるようになった。

すれ違ってもあいさつするだけだったのが、立ち止まって話すようになった。

携帯の液晶に先輩の名前が表示されることが多くなった。

周りのひとから、先輩と仲いいねって言われることが多くなった。

いつからか、三年生の階に行くと、先輩の姿を探すことが多くなっていった。



わたしはいつの間にか、先輩のことをすきになっていた。



なんで、先輩は先輩なんだろう。
なんでわたしは、もう少しはやく生まれなかったんだろう。
もう少しはやく生まれたかった。

なんて、願っても絶対に叶わないわたしの願い。


今でも、ベースの音が聴こえると

先輩かな?

なんて思ったりする。

軽音楽部の前を通るとき、先輩がいるんじゃないかなってどきどきする。


だいっきらいだった自分の名前を呼んでくれる先輩。

先輩のおかげで、自分の名前をすきになることができた。

話しかけてくれるときの少し低めのやさしい先輩の声。

ちび!って言いながら、わたしに近寄ってくるときの先輩のいたずらっぽい笑顔。


なんでこんなに先輩のことがすきになったのかは自分でもよくわからない。

特別かっこいいわけでもない。

でも、先輩の姿を見るとどきどきする。

先輩が話しかけてくれると嬉しくなる。

携帯の液晶に先輩の名前が表示されると自然と笑顔になれる。

先輩のやさしい笑顔がすき。

みんなの中心にいて、いつも笑わせてくれる先輩がすき。


だから、わたしは素直になる。


卒業式の日、わたしの気持ちを先輩に伝えるね。

もしかしたら、先輩を困らせちゃうかもしれないけど

先輩に会えなくなるまえに伝えるね。



「先輩のことがだいすきです」





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