ストロベリー・キス
わたしの願い事はひとつだけ。
───大好きな徹兄と、ふたりだけで過ごすクリスマス───
今までに一緒に過ごしたことがないわけじゃない。でもそれは永瀬のおじさんやおばさんや妹の愛美ちゃん、そしてうちの家族も一緒のことで。仲良く和気あいあいと過ごしてきた。
その席に仕事が忙しくない限り、必ず徹兄もいたけれど。
それは、私の願いが叶ったうちに入らなくて……。
どうしてかはわからないけれど、あんなにたくさんの荷物を持っていったところを見ると、今日は家族と一緒にでも徹兄とクリスマスを過ごすのは無理そうだ。
溜息をひとつつき、遠ざかっていく徹兄の車を見送っていると、玄関から永瀬のおばさんが出てきた。
「あら美玖ちゃん、おはよう。今から保育園?」
「おはようございます。はい、今日は園でもクリスマス会があるから」
「そっかぁ、懐かしいわね。美玖ちゃんも徹も大きくなって。あっそう言えば徹から聞いた? あの子今日から一人暮らしを始めるのよ」
結婚も考えてる女性と、一緒に暮らしたいんだって……。
確かおばさんは、そんなことを言っていたような気がする。
ただ呆然と立ち尽くし溢れ出そうな涙を堪えるのに一生懸命だった私は、もう殆どおばさんの声は聞こえていなかった。