赤鼻のトナカイ
「やっぱり、クリスマスはケーキだよな。そしてクリスマスケーキは、女の子が売るべきだよな」

 そう言って、店長は24日、ストアの前の道路に机を置いて、わたしにクリスマスケーキの販売を命じてきた。

 店内に流れるクリスマスソングを背に、頭には三角帽子。
 目の前にはケーキが並んでいて、すっかり気分はクリスマスなんだけれど。
 雪は降っていなくても、とっても寒い日。
 身体も寒いけれど、心も非常に寒い。
 それでも、ストア指定のエプロンの上から上着をはおり、わたしは店頭でケーキを売った。

「おねえちゃん、大変だなぁ」

 そう言って買ってくれるのは、意外にも、夕方を過ぎた時間帯に通りかかる、会社員のおじさんたちだった。
 ありがたいことに、ぽつぽつとだけれど売れていく。
 きっと、ケーキ屋さんまで足を向けて買うことはしないけれど、こうして通りすがりに売られていたら、家族へのおみやげとして買っていこうかという気になるのだろう。
 そうなると、店長の思惑通りで、なんだか腹が立ってくる。
 それはきっと、わたしの心が寒いせいだからだろうな。
 ――結局、水島くんが姿を現さなかったから。

 わたしが鳥羽ちゃんに言った通り、彼もきっと、彼女とデートなのだろう。
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