にゃんこ男子は鉄壁を崩す


「早く仕事戻らないとまずいんじゃない? 火伊くんの上司かなり厳しいの知ってるわよ」


 何度か火伊くんと連れ立って店に顔を出してくれたことのある営業部長の川崎さんは笑顔で厳しいことを言ってくれる鬼の上司だ。取引先の営業とはいえ、店を出したときにはディスプレイの仕方なんかを事細かに教えてもらった。

 だから、わかる。あの鬼の上司の恐さが。なんとなくだけど。だから、私の言葉で「うッ……」と詰まって頭の中で迷っている彼を私は見逃さなかった。


「ほら、早く行った、行った」


 火伊くんを追い出すと壁伝いになんとかリビングまでたどり着く。ゆっくり……ゆっくり……やっとソファまで来て横になった。長くて座り心地のいい赤いソファ。そのまま寝てもいいように、と一人暮らしなのに3人がけのソファを買った。


 …………今日はマジで疲れたな。

 私は疲れた身体を癒すようにそのままなだれ込み、ぐっすりと眠った。



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