にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「あ……そう、ですか。そうですよね。火伊さんが俺の住所知ってるはずありませんもんね」
「ええ、はい。では、失礼します。また、明日、伺いますので」
「ええ、よろしくお願いします」
火伊さんはいつも見るにこやかな笑顔に戻った。切り替えの早い人だな、と思う。最後の方はいつもどおりのお約束の言葉を交わして俺たちは別れた。
俺はプラザ『ISOGUTI』のビニール袋を手に下げながら、由比子の玄関の前を通り過ぎた。
この時間に由比子はおそらく帰っていないと思う。まだ、彼女が越してきてからそんなに月日は経っていないけど、大体、ガサゴソ煩くなるのは午後7時半を過ぎてからだから。
だけど、なんとなく足は止めないけど、由比子の部屋の玄関を横目でチラリと見た。意味はない。
そのあと、俺はすき焼きを作るべく自分の部屋の玄関に入った。