にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 一人、キッチンに立ち、ザク、ザクと適当な大きさに春菊を切っていた。他の材料も切ってバットや皿に移し替える。肉も木箱から出して冷蔵庫に入れて準備万端だ。だけど、隣の玄関から帰ってきたような音は聞こえて来なかった。


 仕方ないので、それらにラップをして冷蔵庫に入れてからリビングで撮りためておいた夜中にやっているお笑い番組を見ることにする。テレビのディスプレイ画面にはタレ目の男が懸命に毒舌を吐いている。

 だけど、何故か嫌な気分にならないのが、このお笑い芸人の不思議なところだった。俺の冗談は由比子を不快にさせているらしい。だから、あんなにいつも眉間にシワが寄ってるんだろう。


 それでも、それが面白くて構ってしまうんだけど。お笑いのトーク番組2回分ほどの録画を見た。お笑い芸人の面白いトークも終わり、時計を見たら7時半を過ぎるところだった。


 今回のお笑い芸人の男の話は特に面白く、夢中になってテレビに見入っていたから、由比子が帰ってきたのがわからなかったかな。とりあえず、いなかったら一人で食べればいい。

 残りは朝と昼の弁当に卵でとじていれれば最高に旨い。だけど、一人で毎日夕食を食べるのは少しだけ寂しかった。たまには誰かと食べたっていい。

 それが誰でもいいわけじゃない。俺の隣で食事をする女には条件がある。

 
 ①甘ったるい声を出さない
 ②酔ったふりをしない
 ③少食のふりをしないで旨いもんは旨い、と言う 


 この三つがかなり重要。


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