にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「うん、重要な話。だから、玄関開けて?」
「………………わかった」
すげー沈黙の後の了解。今度はどんないたずらしてやろうか、と考えていたら、玄関を開けた由比子の姿は80過ぎのばあさんのように腰を曲げて立っていた。……なんてのは言ったら、きっと由比子の口がキツツキよりも長くなって、また機嫌が悪くなりそうだから言わないけど。
「……由比子、どうしたの」
「別に。なんでもない」
由比子は下駄箱につかまりながらも、ぶっきらぼうな言い方で面白くなさそうな顔をしている。
「それより、重要な話って?」
どうしても俺とは顔を合わせたくないらしい。目を合わさずに、すぐに核心をつこうとする。すぐにでも追い返したいんだろうな。
「あのさ、これ、高級牛肉。すき焼き、一緒に食べよ」
「は? いきなり、何? 私、肉とかあまり好きじゃないの」
肉好きじゃなくても大体、ブランドの名前には大概のやつは弱い。食べてみたい、というのが人間の心理だろ。まぁ、食べても松阪牛には虜になるんだけど。俺の母さんも牛肉が嫌いだが、松阪牛などの高級牛肉は大丈夫らしい。本人が言うには安い肉独特の臭みがないということらしいが。
「え、ホント? 松阪牛A5等級、400g25000円なんだけど興味なし?」