にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「…………ミィコ、帰れば?」
あ、そういうこと言っちゃう? 折角、用意してやったのに。マジで意地の張りすぎは可愛くない。
でも、最近、そういうところも可笑しく思えてくる。こういう時はホントは頭グシャグシャにしてほっぺもギューギュー引っ張ってやりたくなるけど、まあ、そこはぎっくり腰やっちゃった女(完全な決めつけだが)、相楽 由比子だし?
勘弁してやるよ、今日は。
「あれ、由比子。松阪牛、食べたくないの」
だから、できるだけ俺にしては優しく言ったつもり。
「…………食べる」
あ、ちょっとだけ可愛くなった。ブランド牛にはやはり弱いらしい。最初から素直に食べたい、と言えばいいのに。だから、「うん、だって一人じゃ、夕食の支度だってできないじゃん。俺がいて良かったネ」と言った。
そしたら、また「一食くらい抜いたって……」とか可愛くないこと言うし。どこまで意地っ張りなんだろうね。
「またそういうことを。だから、もっと頼りなよ、ご近所さんを」
痛みに顔を顰める由比子を見て火伊さんの言葉が蘇った。
『俺は……今日は友人の体調が芳しくなくて送ってきただけなんです』
という言葉。
偶然かな?
体調が悪い友人を送ってきた火伊さん。
体調が悪くて呻いている由比子。
俺の中に魚の小骨が引っかかるように何かがつっかえてモヤモヤが広がった。