にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 静かになった店内であずちゃんは苦笑する。勿論、手は動かしながら。何もしないで無駄話するほど私たちも暇じゃない。




「由比子ちゃんはあんなに好かれてるのにビーグルを受け入れてあげないんだね。そんなにキライなの?」




「キライっていうか……ビーグルとセックスするっていうイメージが沸かない。セックスしたとしても好きになれるかわかんないし」




「試しに付き合ってみればいいのに」




 あずちゃんは棚の下の収納を出して箒でホコリを出しながら、軽く言うけど。私にとっては一大事で。付き合うってそんなに軽いことじゃない。




「え、ヤダ。付き合ったら、ビーグルがっつきそう。雰囲気も何もなくエッチ、エッチって騒ぎそうだからヤダ。付き合ってもセックスは好きだって確認してからにしたいんだよね。ビーグルの場合無理そうじゃない?」





 私も雑貨が飾られているテーブルの棚を拭きながら、胸の内を明かす。いざ、付き合ってしまうと強く言われるとなかなか拒否できないのが私なのだ。




 彼氏や男性に関わらず、何かを誰かに頼まれるとなかなか『イヤダ』と言えない。それが原因で頑張りすぎてしまうことがしばしば。彼氏ともなれば、そういうところで甘えられてしまうと、違和感を覚えつつも彼氏のお願いを聞いてしまう形になり、結局自分がとても疲れてしまうのだ。





「まぁ、確かに。さっきの行動見たら否定できないわね。でも、付き合ってみなきゃわからないこともあるわよ? そうなるとは限らないし」




「そう? うん、まー、確かに付き合ってみなきゃわからないこともあるよね。でも、今それは急がなくてもいいような気がするの。歳も歳だしもっと焦ろうよ、とか言われるかもしれないけど、どうしてって言われると説明が難しいんだけど……なんとなく頭の中で『まだだよ』って警鐘を鳴らしてる自分がいるんだぁ」




「もう……由比子ちゃんの場合、いつも警鐘鳴らしてるんでしょ」




 あずちゃんは私のいつもの言動として捉えてる。確かに私は警戒し過ぎかも。でも、ホントに急いで後悔したくないんだ。だってこれぞ運命の人ってのが現れるかもしれないじゃん? 



 
 でも、そういう本音は今は言わないでおこう。言うとしたら、それは……運命の人、と思える人が現れてからかな? だから、私もいつもように答えた。




「あは、言えてる」



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