にゃんこ男子は鉄壁を崩す
3時を迎えてやっと仁衣菜ちゃんが店に来た。カウンターに入るなり、「由比子さん、腰ダイジョブでしたか~? あずささんに聞いてびっくりしちゃいましたよぉ」と声を掛けてきた。
「うん、ごめんね。暫く迷惑かけるわ」
眼前で両手を合わせて手刀を切ると「じゃぁ、このお誘い無理だなぁ」と残念そうに呟く仁衣菜ちゃん。別に腰が痛いのにどっか行こうなんて考えてない。ただ、どんな内容なのか気になるだけで。
「ん、何のお誘い?」
「え、いや、興味なければそれまでなんですけど」
「勿体ぶらないでさっさと教えてよ~」
ニヤリ、とした仁衣菜ちゃんが私の方を流し目で見つめる。はッ! これは大学生の生娘に私はハメられたらしい。
「レザークラフトの創作体験なんですけど、友達が来れなくなっちゃって」
「……ふぅん」
「腰痛くてダメですよねぇ。講師のセンセなんですけど、ワイルドな顔立ちにクールそうに見えて優しくて……それに! もろ職人って感じののカッコイイ人なんですけど」
行かないわけないじゃん! 腰痛くたって行くよ! もう快方に向かってるんだから! 腰悪いのにテニスしたことがあって悪化させたことはあるけれども! 今回はテニスじゃなくてレザークラフトの創作なんだから! 運動するわけじゃなし、行くって!
「行くよ、仁衣菜ちゃん!!」
「あ、行きます? 食いつきいいですね」
「……いやいや、レザークラフトって興味あったのよ。だから……」
「ハイハイ。由比子さん、来週の『bonheur』の定休日ですからね、ヨロシクです」
うむ、イケメン・独身は見逃せん。必ずしもそのイケメン・独身が私のことを気に入るとは限らないし、私だって彼のことをいいな、と思うかどうかは別で。だから、とりあえず、お互いをどう思うかはわかんない。
だけどチャンスがあれば自分から動かないと!
珍しく積極的になった私は(仁衣菜ちゃんの策略で)思いもかけず、レザークラフトの創作体験に行くことになった。