にゃんこ男子は鉄壁を崩す


「由比子さん?」


「えッ?」

「先生のお話、ちゃんと聞いてます?」




「う、うん……」

 実はというか全く聞いてなかった。既に私の手元には今日、制作する物の材料と工具が置かれている。先生のお話はとっくに終わってしまったらしく、助手の人が(もう呼びたくない)、「わからないところは遠慮なく声をかけてくださいね」と言いながら布地を染める染料が入った小皿と布の切れ端を配っていた。





「もう、由比子さん。松川先生に見蕩れすぎたんじゃないですかぁ? ここはね、こうやるそうですよ」




「そうなんだ、ありがとう。仁衣菜ちゃん」




 説明を聞いてなかったことを見透かされた私は仁衣菜ちゃんに丁寧に教えてもらった。



「あとは刻印とハートの穴ですね」

「刻印?」




「もう! ホントに由比子さん、聞いてないんだからぁ。ほら、私のは刻印、終わってますから」



 仁衣菜ちゃんの手元にあるものには『刻印』がしっかりと施され『NIINA&KATHUTO』と刻まれている。おそらくKATHUTOって言うのはお隣さんの名前だ。呼ぶことはないけど表札で苗字を確認した時に名前も書いてあった。



 ヒクっと頬を引き攣らせながら、「ありがとう」と言った。




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