にゃんこ男子は鉄壁を崩す
私の手元が影ができて暗くなったので側に人が立ったのだとわかった。
「何かお困りじゃないですか」
「別にお困りじゃないです」
変な日本語かな、とか思ったけど別にいい。もう、早くどっか行っちゃってよ、と横に立った人物に心の中で悪態をついた。俯いたままブスっとした表情でそう言うと横にいた仁衣菜ちゃんが甘ったるい声で余計なことを言う。
「小宮さぁん、このお姉さん、由比子さんて言うんですけど、全然、話聞いてなかったんですよぉ」
「……」
「あはは、先生目当てで来たんですね。よくいるんですよ、そういう方」
「あー、やっぱり松川先生人気なんだぁ」
「競争率高そうですね」といらない耳打ちをしてくる仁衣菜ちゃん。他人行儀に話す二人にもイライラした。……エッチしてるくせに。しかもコイツは私にも初めて会った相手のように他の人たちと同じように接する。
「今、刻印するところですね」
「……はい」
「刻印する字はお決まりですか」
無視するわけにもいかないのでとりあえず「自分の名前を」英語の大文字の刻印棒を手に取るとヤツが手を重ねてきた。
不覚にもドキっとする自分が心底憎い。