にゃんこ男子は鉄壁を崩す
松川先生は一目散に奥さんが帰ってくるであろう自宅に帰って行った。目の前にいるコイツの顔を見るとフッと小馬鹿にしたような笑みを漏らしたかと思えば、無言のまま引き寄せられ、私に肩を貸す。
「いや、小宮さん。私一人で帰れますんで」
一瞬、唖然としていた私だけど、瞬時に状況を理解し、仁衣菜ちゃんの手前もあり、フラフラしながらも、慌てて彼から離れようとする。だけど、酔っ払った私に彼を押し退けるだけの力などあるはずもなく、あっという間に引き寄せられて私たちは歩き出した。
「歩けないくせに何言ってんの。仁衣菜ちゃん、タクシー代あげるから一人で帰ってもらえる?」
コイツは少しだけ振り返りながら仁衣菜ちゃんにそれを言うと、彼女はかなり困惑気味だ。当然だよね、これじゃ、私が彼を狙っていたみたいな展開だ。どうしようと思いつつも頭も口もうまく回らない。
「え、由比子さんと小宮さんは……」
「俺たち、同じマンションのお隣さん同士」
なんてことを……それ、今最も行って欲しくなかった情報。
チラリと見えた仁衣菜ちゃんの顔が少しだけ恐かった。