にゃんこ男子は鉄壁を崩す
頭をポンポンされるとまた涙が溢れる。こんなやつの前で泣きたくないのに! でも、止められなくて。とても恐かったから。
「ほら」と手を差し出されたけど、私、素直じゃないの。可愛くないの。さっきまで一緒に帰りたくないと思っていたやつの手をとったりなんかできない。差し出された手を見た。
不安だったのは事実で。何かに縋りたかったのも事実で。だから、今だけ。今だけ、奴しかいないから。ちょっとだけ甘えてみる。手を握るのは流石に躊躇われたので彼の服の袖を掴んだ。
「ホント、素直じゃないよね、由比子は」
フッと笑った小宮はそのまま歩き出した。さっきは意図的に喋っていなかったけど今は何を喋ったらいいのかわからない。冷たい態度をとったのに助けられてしまった。
お礼を言ったほうがいいのは確か。単なるお隣さんにここまで迷惑をかけてしまうとは。嫌なやつであろうとも、やっぱり助けてくれたのだから。奴は服の袖を掴みながら後ろを半歩遅れて歩く私を時々、チラリと見る。それがわかってからは何故か顔を上げられない。
だから只管、凍った雪道を見ながら歩いた。