にゃんこ男子は鉄壁を崩す
玄関の前で別れるとき、小宮が私を見る。お礼を言おうとしたら、そして、ふと「由比子は俺がキライなんだよね?」と唐突に聞いてきた。驚いたけど、どういう反応をしたらいいのか困る。そこは可愛くない私。
「……キライだよ。女の子の気持ち、弄ぶ人なんて。アンタ、図々しいし、強引だし」
間違ったことは言ってない。どれも事実だよ。だけど、少しだけチクン、胸が痛んだ。
「そっか。やっぱりね。でも、安心してよ。今月中には引っ越すから」
それだけ言うと小宮は玄関の向こう側へ行ってしまった。驚いて動けなくなった私を残して。でも、この寒い廊下でずっといるわけにもいかない。重くなった足を動かして私も自分の家の玄関を開けた。
ゆっくりと閉まりガチャンと音を立てる玄関のドア。何もする気力がなくなって。疲れているせいもあるな、と自分に言い聞かせる。ブーツを脱いで○ニーちゃんのスリッパに履き替えてリビングに入ろうとする。
勿論、中は暗い。誰もいないんだから。いつものことだけど。当たり前なんだけど。そんなことで涙が溢れてきた。ひとり取り残された気がして。捨てられた子猫のように私はか細く泣き声をあげた。