にゃんこ男子は鉄壁を崩す
再び籠の中の鍵を取り出して部屋を出た。チラリと由比子の家の玄関を見たけど、俺はそのまま歩調は緩めず歩いた。金なんてないから、松川先生たちと行った店みたいなかなりいい値段がするとこなんて行かない。
大学生御用達のかなりお財布に優しい居酒屋。店員さんの笑顔が最高、全品380円以下の価格破壊! 俺は仁衣菜ちゃんが来るまでカウンター席でとりあえず、380円のサラダと生ビールを頼む。
……何してんだろな、俺は……
「お待たせしましたー」とサラダと生ビールが運ばれてきて「どうも」と短く言って女の子の店員の顔を見ると目があった。サッと頬を染めた彼女は早口で言う。
「他のご注文は何かありますかッ?!」
「いえ、特には」
「え、と……このだし巻き卵はすごく美味しいんですよ!」
特別メニューなんて他の客にもそんなに熱心に勧めたりしてんのかよ、と言いたくなるが、もしかしたら、真面目な子かも、とか期待を抱いてとりあえず、愛想笑いをして「大丈夫です」と返した。
明らかにシュンとなる店員を認め、やっぱりなと思う。シュンとしようがどうしようが、そんなの気にしてられないし。それと同時にやっぱりどの客にもあんな接客するわけないよな、とため息をついた。
目の端に映っていた店員を視界から追い出し、運ばれてきた生ビールに口をつけた。