にゃんこ男子は鉄壁を崩す
今日の生ビールは特別苦くて美味しくない。店の入口から仁衣菜ちゃんだと思われる女の子の声が聞こえる。俺の方へ案内されてきた。俺の前まで来た仁衣菜ちゃんの顔は困惑気味だ。
「小宮さん……」
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって。何飲む?」
「……カンパリオレンジ……」
「それ、ください」
「畏まりました」
さっきの無駄にテンションが高かった女の子の声に勢いがないのがよくわかった。由比子もあれくらいわかりやすかったらね。仁衣菜ちゃんは俺の隣に座るといつもと様子が違うので「どうかした?」と聞いた。
視線だけをこちらによこして仁衣菜ちゃんは震えた声で俺に言う。
「どういうつもりでここに呼んだんですか……?」
「? ……いつもと同じでしょ」
俺の答えに落胆したように肩を落とす仁衣菜ちゃん。利害は一致してるはずだった。俺のことが好きな仁衣菜ちゃん。恋人として付き合うことはないよ、と言ったらそれでもいいから、一緒にいたいという女の子。俺は俺で性欲が満たされるのならそれでもいいかな、と思ってセフレとして付き合い始めた。
それなのに、そういう顔しちゃったら、この関係は保てなくなるよな、と俺は頭の片隅で冷静に考えていたんだ。