にゃんこ男子は鉄壁を崩す
自分でも少し困惑していた部分を突かれたせいか俺の中でも普段なら絶対に言わないようなことが口をついて出る。
「足取りも意識もはっきりしてたじゃん。ホントは酒強いくせに。カンパリオレンジなんてよく頼むよな。女の子してます的な感じ? ホントは日本酒でも飲みたいんじゃないの」
咄嗟に仁衣菜ちゃんのカンパリオレンジのグラスを持っていた指に力が入ったのを認めて俺はグラスを奪い取ってカンパリオレンジを一口口に含んだ。仁衣菜ちゃんを引き寄せて強引にキスすると予想通り、「嫌……ッ!」と言われて唇を噛まれた。
血が滲む唇。俺は親指で血を拭き取ると「キスもできないんじゃ俺たち終わりでいいんじゃない?」と言った。
別れる二人に綺麗な終わりも思い出もいらない。
「さいッ…………てぇ……」
きっと隣にいた仁衣菜ちゃんは立ち上がったとき、涙を零していたと思う。それは本物の涙だったかもしれない。だけど、俺は前を見据えたまま、居酒屋のマスターが焼き鳥を焼くのを黙って見ていた。
仁衣菜ちゃんの泣き顔を見ることはしなかったんだ。例え、セフレでも女の涙には男は弱いってのが相場で。少しでも悪いことしたな、なんて思っちゃったら俺の負けだ。