にゃんこ男子は鉄壁を崩す
仁衣菜ちゃんが店を出たあとも俺は苦く美味しくもない生ビールを喉に流し込む。こんな時こそ酔えたらどんなに楽か。どんな相手でも別れる時は後味が悪い。
自然消滅とか楽だけど、相手が別れたつもりでいなかったら、後々面倒だし。それだったら、こういうふうに派手に別れた方がいい。そう自分に納得させてまた一口生ビールに口をつけた。
さっきの若い店員の女の子が俺たちの修羅場を見ていたのか、通る度にチラチラとこちらを窺っているのが煩わしい。それを無視するように会計を済ませて店を出た。
店を出ると空からはちらほら雪が舞い降りてる。暖かい地域のたまに降るこういう雪はロマンティックと言えるのかもしれないが、雪国の地方の者からしたら、また雪かとため息が出る。
既に雪は踝(くるぶし)ぐらいまで積もっていた。……こりゃ、明日も雪かきかな、なんて手袋をし忘れた手をポケットに突っ込む。俺は首をすぼめてマフラーに口元まで顔を埋めた。
家に着けば、ちらほらだった雪はいつの間にか結構な量の雪になっていて。俺の頭にこんもりと積もった。マンションの自動ドアをくぐる前に雪を払った。かなり、濡れたな。雪も冷たかったが、今日は特に外気も冷たかった。
昼間はお日さまさえ出てればなんとか暖かかったが、日が落ちると凍えるほどに寒い。その中を頭に雪を乗せて歩いたのだから、身体が冷えきってしまってもおかしくないか。
エレベーターに乗り込むと動き出した瞬間に少しだけふらつきを覚えた。悪酔いしたかな。酔っていないと思っていたのに。いや、仁衣菜ちゃんにあんだけ悪態ついてしまった時点でかなり酔っていたか。