にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 由比子の部屋の前を通るけど、何か聞こえるわけじゃない。火伊さんが中にいるのか、由比子と一緒にどこかへ出かけたか。




 つーか、来客が火伊さんかどうかもわからないじゃないか。そんなの俺にわかるわけない。それでも、自分の部屋の鍵を差し込んだところでまた由比子の部屋の玄関を見た。




 見たところで何の変化もなかったけど。俺はため息をついて部屋に入った。やっぱり自分の部屋ってのは落ち着くよな。暖房を入れてポットの電源を入れる。インスタントコーヒーの用意をしたら、寝室に向かった。




 クローゼットを開けてスェットの上下を取り出すと元セフレの仁衣菜ちゃんの洋服が目に付く。下着からストッキング、アクセに至るまで……勝手に仁衣菜ちゃんが置いていったものだけど、返さなきゃな。




 捨てときゃいいか。でも、こういうのって勝手に捨てたりしたら、訴えられることもあるんだっけ。……めんどくせ。




 何もかもがめんどくさくてベッドに転がった。ベッドに転がれば自ずとさっき、由比子の部屋に来客があったことが思い出される。




 由比子の部屋の方の壁に背を向けて布団の中に潜り込んだ。目を瞑ると耳が小さな音を拾う。




 シュシュシュシュ……

 ああ、瞬間湯沸かし器のポットのお湯……コーヒーを飲もうと思ったんだった。そう思って立ち上がった時に隣の部屋から『キャハハ』という声が聞こえた。振り向いたけど、それ以上の声は聞こえてこない。




 ……由比子、出かけてなかったんだ……

 途端に火伊さんの顔が浮かぶ。火伊さんが由比子に好意を抱いているのは間違いない。俺はお隣さんだけど、キスとかしちゃってるけど、多分気持ち的には火伊さんの方が由比子に近い気がする。




 前に由比子が腰を痛めた時に火伊さんは由比子を『友人』と言っていた。『友人』と『お隣さん』じゃ、どう考えても『友人』の方が上だよな。



 ……ってどっちが上って考えたって仕方ないし。



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