にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 お腹の上に飛び散った白い液体を綺麗に拭き取るとため息が出る。何やってんだ、俺。このまま、目を瞑って何も考えたくない。由比子のことも火伊さんのことも仁衣菜ちゃんのことも忘れることができたら、いいのに。




 でも、神経質な俺はキッチンにそのまま置いてきてしまったインスタントコーヒーを放っておくことができない。俺は勢いよく立ち上がってキッチンに向かった。瞬間湯沸かし器のポットの中のお湯は既に冷たい。




 すぐに沸かしなおす。今度はキッチンで待つことにした。再び、沸騰するお湯の湯気を黙ったまま見つめていると、由比子の顔が浮かんだ。由比子って大人のくせにお世辞とか言わない。




 松阪牛食ったときもアボカド食ったときも、『美味しい』って一言だけ。だけど表情で彼女の気持ちはわかった。嫌な時も嬉しい時も露骨に顔に出る彼女。仕事の時はもしかしたら、違うのかもしれないけど、そんな仮面を被ってない彼女に好感を持っていることにさっき、仁衣菜ちゃんが酒が弱いフリをしたことで気づいたんだ。



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