にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「じゃあ、ここでいいです」
「うん」
「「…………」」
ビーグルはどうしてここに来たんだろう。素朴な疑問。本当に会いたかっただけ……? 私は彼の真意を探ろうと彼のくりくりとした目を見つめた。
「あ、あの……そんなに見つめられるとドキドキします」
「んじゃ、見ない。で、ホントは何しに来たの? 一応、店では会ってたでしょ」
『ドキドキする』なんて言われたら、私だって『ドキドキする』よ? そんなこと言われるのなんてもう何年も言われてないんだから。だから、照れ隠しもある。ビーグルから目を逸らし、自分の家のなんの変哲もない下駄箱を見ている。
「!! ……だって由比子さん、なんか上の空だったから」
「はぁ? ちゃんと新商品の話とかしたじゃない。新しいブランドの雑貨の話も」
私は心外なビーグルの言葉に顔を上げ、ビーグルの顔を見ると今度はビーグルが目を逸らして玄関口に腰を下ろした。
「しましたよ! しましたけど……どっか心ここに在らず、みたいな」
いつだって私は仕事に対しては真剣で。でも、心のどこかでアイツのこと考えてた……? あの時はあの工房で働いてるなんて知らなかった。お隣さんだけど、毎日会っていたのが嘘のように会えない日が何日も続いていて……気づかぬうちにアイツのことが気にかかっていたのかな……?
いや、というよりも認めたくない一心で意識的にアイツを頭の中から追い出していたのかもしれない。