にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 でも、5階からロビーなんてすぐに着いちゃうわけよ。彼におにぎりは渡せないまま1階に着いた。いたたまれなくなった私は足早に先にエレベーターから降りて歩き出した。


 ……だけど。後ろから歩いてきた彼にあっさりと抜かれてしまった。無造作にセットされた茶髪がさわさわと風に揺れる。少し肌寒くなった外気にマフラーで口を隠しながら彼は歩いてた。


 呆然と見送っている場合じゃない! お、おにぎりは渡さないけどお礼を言わないと! そう思って私は彼の後を追いかける。


「ああ、あ、あ、あの!」


 声を掛けられることがわかっていたかのようにフッと振り返ったその人は。私に爽やかな笑顔で笑いかける。あれ、なんかいい人? 昨日、私、考えてみれば結構失礼なことを……やっぱりおにぎり渡す? どうする? 


 とりあえずお礼だ! お礼!



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