にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「あ、でも。今日は仕事ですから。仕事で俺、来たんです!」
カウンターにたった今置いた業者向けの簡単なカタログをトントン、と叩いて指差した。そしてパラパラ捲るとビーグルの目的の商品が見つかったらしく、そのまま視線がそのページで止まる。
「これ」
とビーグルが差し出したカタログには工房 松川と書かれたうちではお馴染みのカタログだ。一点ものの商品だから値段と簡単な説明しか書かれていない。そこにヤツの名前はないけど見覚えのある手だけが作業をしている写真に映っている。
中指と人差し指に巻かれた包帯。
いつしか私たちの……いや、私のお気に入りの雑貨になっていった君たちは彼が勤める工房のものだったのか。
「この間、由比子さんが仕入れた手帳や鞄は彼が初めて商品として世に送り出したモノです。彼が心を込めて作った……」
そこまで言ってビーグルは言葉を止める。
あの手帳を仕入れてからいつ売れるかいつ売れるか、と心待ちにしていた。毎日、毎日、商品の手入れをする度に愛着が沸いてもし、売れなかったら、自分が買ってしまおうなどと思うほどにあの手帳が好きで。
まぁ、結局は仁衣菜ちゃんに買われてしまったわけだけど。あの手帳の手入れしていた日々とミィコがどんな思いであの手帳を作ったのか考えたら、熱いものが胸から込み上げてくる。
それにあの黒のレザーのティッシュカバーもきっと私が使うことを考えながら作ったのだろうな、と思ったらなんだか胸が痛くて。