にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 仕事が終わって私は電車に揺られている。目の前には新聞を小さく折りたたんで読んでいるオジサン。目の前に新聞があるのでなんとなく読んでしまう。



 ガタンゴトン、と電車に揺られていると私が乗った駅の次の次の駅で見慣れた顔がホームにあった。あっちは気づいてない。私が乗っていることに。今日の電車は満員とまではいかないけど、少し混んでいる。



 彼の顔が人の影に隠れて見えなくなった。無造作に整えた茶色く跳ねた髪だけがひょこん、と見えたり、見えなくなったりする。



 そんな彼の茶色い髪の毛を目の端に捉えながら、また新聞を読んだ。



 でも、ふと気がつく。いつだかあの忌まわしいキスをされた日。私が降りる駅よりもあとに降りるって言ってなかった? そういえばあの駅で降りれば体験教室があった工房に行ける。


 確か……カタログの住所もあの辺じゃなかった?



 …………もしかして……? いや、違うか。満員電車だったから、私を守るために自分の降りる駅で降りないで一緒に乗っていてくれたのだろうか、なんて思ったけど、あの満員電車でこともあろうかアイツはキスしてきたんだから!



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