にゃんこ男子は鉄壁を崩す


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 私は布団の中で温々微睡んでいた。鼻腔を刺激する何かを焼いた匂いとパチパ
チと焼く音に目を擦ってやっと目を覚ました。いつもの白い天井にいつもの白い壁。



 ……だけど家具はうちのじゃない。布団もシックなブラウンの落ち着いたデザイン。ガバっと起き上がった私。有り得ない状況に言葉になっていない声で叫んだよ、ひとまずは。




「あわわわわわわ!!!!」

「あ、おはよう、由比子」



 フライパンを揺らしながら暢気に挨拶するミィコに僅かに殺意を覚える。




 起こせよ、ミィコ!




「あずちゃん!! 仕事!!」

「俺、あずちゃんじゃないし。仕事、まだ間に合うでしょ」




 彼のフライパンを揺らす手は止まらずにトースターがチーン、と鳴ってパンが焼けたことを知らせてくれる。その間抜けな音がまた私を焦らせる。パンなんて食べてる暇、ないって!




「だから! あずちゃん!! 仕事!! やだ、どうしよう!!」



「由比子、何言ってるか全然わかんない」




 さすがのミィコも眉間に皺を寄せて説明を求めるように私を見る。私もわけわかんないよ、この状況! なんであそこで眠って朝まで起きないかな、私は! でもそう、確かに焦っている、私は! 




 仕事は今日早く出なきゃ行けないし……ミィコに説明なんてしてる暇ない! 




「へ、部屋に帰るわ、私!」

 シャワー浴びてすぐに家出ないと! 私の脳裏には頭に小さく突き出た角が生えてにっこりと悪魔の微笑みを携えるあずちゃんの顔が浮かぶ。





 ヒィィィィ……あずちゃんって怒らせたら日本一恐いと思う。私もドSだけど、彼女はドSの中のドS。女王様だッ!





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