にゃんこ男子は鉄壁を崩す


「由比子さん、小宮さんと寝てないんだ…………」




「へッ……?!」

 後ろを振り返ればまた君かいな。ビーグルくん。ビーグルは店の入口に立って私たちの話を聞いていたらしい。最近の君には見られなかったニヤニヤ顔。なんていうかチャラい顔? ま、どうでもいいんだけどさ。




「また沸いてきたわね、火伊さん。さ、新しい業者の人来るんだから、チャッチャとお掃除済ませちゃうわよ、由比子ちゃん」




「あ、そうだね」

「無視しないでくださいよ! じゃ、由比子さん俺と一度えっちしましょうよ! そしたら小宮さんより俺がいいって言うかも!」




 そういうこと軽く言うって君。





「なーんかこの間までは純情少年みたいな顔してたくせに以前のチャラい火伊さんに戻っちゃったね」





「真剣、真っ直ぐに想い伝えたら、なんとか由比子さん落とせるかと思ったんですけど、無理みたいなんで。俺も疲れるし。いいことないし。キャラ戻しましたよ」




 ああ、やっぱり。あの真っ直ぐな君はやっぱり無理してたんだ。こっちのがビーグルの本性ってわけね。カウンターに肩肘ついて喋るビーグルはこの間とは別人みたいだ。




「あれってじゃあ演技だったの?」

「だから、あれが俺の本当の気持ちでしたよ? でも本当の気持ち言う奴がいつも勝者ってわけじゃないってわかったんです。だから今まで通り、チャラくいこうと思って。その方がモテるし」




 なんか複雑。

 このビーグル犬をひねくれさせてしまったのは私のような気がしてきた。



< 237 / 281 >

この作品をシェア

pagetop