にゃんこ男子は鉄壁を崩す
そう思ったらエレベーターから降りることができず、仁衣菜ちゃんは私が居るエレベーターに乗り込んで乱暴に1Fのボタンを押した。壁に張り付いたまま、足が床に固定されたまま動けない私と沈黙を貫く仁衣菜ちゃん。
1Fに着くと何も話さぬまま、仁衣菜ちゃんは走り去っていった。彼女の目から大粒の涙が落ちたような気がしたのだけど後ろ姿しか見えなかったのではっきりはわからなかった。
こ、これって……ミィコの部屋に行って何があったのか確認するべき、よね? 何、このオバサンとか思われるかな? 震える指でまた5Fのボタンを押すと扉がゆっくりとしまった。
どれくらい、そうしていたかな……
私はミィコの部屋の前で私たちの関係を表しているようなグレーの色をした玄関を見つめたまま、インターホンを押せないでいた。下を向いたまま、上げることもできない。寒い廊下で私は泣きそうになってたんだ。
「あれ、相楽さん、小宮さんの家の前でどうしたんですか」
「あ、お隣の神代さん……」
お隣の神代さんは人妻で今、買い物から帰ってきたようだ。両手には野菜やら肉が入ったエコバッグを下げている。
「寒いでしょう? 小宮さんいないんですか」
そう言うと、ミィコの部屋を見やる神代さんに焦って「い、いえ……」と返すが言葉が続かない。私たちの廊下での声は誰もいない中でしかも夜。少し響いていた。