にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 暫く呆けていた俺だけど。

 由比子さんのために何かできれば、と思っていたけれど。




 嫉妬にも似た気持ちが沸々と沸いてくると変なことを口走ってしまいそうになる。俺が口走る前に口を開いたのは小宮さんだ。どうやら俺の心情は彼に読まれてしまっていたらしい。



「火伊さん」

「え、あ、はい」

「由比子は俺のですから。手を出したら許しません」





 ギロリ、と睨む普段とは全く違うその表情に身体が固まってしまう。喉が潰されたように何も言えなかった。



 ……俺ってどうしたいんだろ……

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――――
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「ねえ、美優ちゃん。チャラい俺と真面目な俺。どっちがカッコイイと思う?」




 美優ちゃんは以前に俺に告白してきた女の子だけど、こうして付き合っているわけでもないのにたまに飲みに行くことがある。上目遣いにジッと見ると頬を染めるのはまだ俺を好きなんだろうか。




 確か彼氏ができた、なんてこと言ってた気がするけど。




「知らないですよ。火伊さんが真面目なんてできるの?」



「この間まで真面目だったし」

「ああ、かなり無理してましたよね」



 ククっと笑う彼女に面白くない俺。なんだよ、幸せじゃないのって俺だけ? それってすごく面白くない。由比子さんと小宮さんはくっつきそうだし、上司は奥さんとラブラブだし、目の前にいる美優ちゃんも彼氏とうまくいってんだろ。




 俺だけ、ひとりぼっちかよ。だから、悪戯心に火が付いた。




「美優ちゃん」

「はい?」と顔を上げた彼女にキスをするありきたりなシチュエーション。柔らかな感触を久しぶりに楽しみ、ひとり、またイヴを過ごすやつが増えればいいな、なんて考えながら。




 ホント俺って嫌な奴。そう思いながら、唇を離したら、涙目の彼女が目の前にいる。




「バカッ!!」

 バチーンという鼓膜を破りそうな音と強烈な痛みが頬を襲う。




「イッテーぇ……だよな……俺ってやっぱり馬鹿、だよな」



 そう呟いてプリプリ怒りながら帰っていく美優ちゃんの後ろ姿を見送った。でも、馬鹿でいいや。じゃないと失恋の痛みをかき消すには時間がかかりそうだから。




火伊side


end

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