にゃんこ男子は鉄壁を崩す
「別れちゃいなよ、そんな彼氏」
悪魔の囁きってこういうの言うんだと思う。幸せになろうとしているのに地獄に突き落とそうとする男。それがわかっているのに揺れてしまう私は悪い女だ。
――――とりあえず、口止めはしたものの、不安は消すどころか募っていくばかり。彼氏にそのことがバレるかもしれない、と思うと気が気じゃなくて。
「美優……何、考えてる」
「え……何にも。やぁだ、私、ボーッとしてた?」
「……ああ」
頬杖をついた彼がそう答えたあとも私を目で追っている。観察眼の鋭い彼氏が私の異変に気づいたのはすぐだった。焦り出す私を訝しげに見る彼氏。
「美優……寂しいのか?」
「えッ……?」
「昔の男に縋るぐらい寂しいのか……? それともまだ続いてるのか」
「昔の男……?」
「今日、仕事でそっち行ったら、美優が喫茶店に男と入るの見た」
「…………」
「俺、美優がいないと……」
後ろから抱きしめられた私。だから、彼の表情はわからない。でも、震えてる。胸が熱くなった。私のことをこんなに想ってくれるオトコはきっとこのオトコだけだ。
「アレは友達。なーんにもあなたが心配することはないの」
そう言うと彼の腕に自分の手を添えて優しく言った。あのkissはきっと夢の中の出来事だった、と思おう。きっと私はラクダか犬にでも噛まれたんだ。
そう、大したことじゃないわ。墓場まで持っていったってイイ。もし、万が一バレたってきっと私を抱きしめてくれるこの男とならなんだって乗り越えられる。
あんな悪魔の囁きにはもう負けないし。ビーグルなんて犬ごとき。追い払ってやるわよ。
私は幸せ。幸せになる。幸せ、です。誰が犬がなんと言おうとも。
犬ごときに邪魔なんてさせないわ
美優編 End