にゃんこ男子は鉄壁を崩す
遡ること一昨日の夜。数え切れないくらいのキス。何度目かな、なんて考えてもわからない。ミィコのおねだりは唐突でしつこい。
「由比子」
「ん」
呼び方のトーンでなんとなく察しはつく。でも、だからといってすぐに反応なんてしてやらない。短く反応したあと、足の指のネイルを塗ろうとしている直前で手を止められる。顔を上げるとミィコが横から抱きついてきた。
「シよ、由比子」
「ヤダ。今、ネイル塗るんだもん」
ちょっとイジワル。また懇願する君が見たくて。私が再び、足の指先に視線を落として塗り始めようとすると「シよー、シよー、シよー」と餌を懇願する猫のように煩く喚く。
その声を無視して赤いマニュキュアを再びつけようと、ハケに液につける。親指の爪に冷たいマニュキュアの感触。マニュキュアのきつい匂いが鼻を掠める。
「あーッ! 塗っちゃった!」
「なによ」
「暫くできないじゃん!」
「…………」
お前は盛りのついた猫か。隣の指にも赤い色。私の足の指が鮮やかな赤に変えられていく。綺麗に塗れたときは気分がいい。次第に満足していく心に自然と口角が上がる。
手の爪も全て赤く染めてにんまりと笑みを作る。無視し続けたのが効いたのか「……もう、いい」と不貞腐れた声を出すウチのミィコ。
諦めたか、流石に。