にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 顔を顰めたあずちゃんはコーヒーをひとくち口に含んだあとため息をついた。そして真剣な眼差しを私に向ける。




「豊胸って簡単に言うけど美容整形だってリスクあんのよ。豊胸後にしこりができて痛みが出ることだってある。メンテナンスだっているし」




 それはわかってる。インターネットで調べて何十万ってお金がかかることやリスクがあるって知ったから。




「でも、ミィコが満足できてないんだったら……」



「そのにゃんこくんとのセックスの時、痛かったら意味ないじゃないの。手術って簡単じゃないんだよ、由比子ちゃん。話を聞いてみれば、にゃんこくん、ちゃんと由比子ちゃんのこと愛してんじゃない」




 『愛してる』って言葉に実感が持てない私。好きだよ、ってのは何度か言われた。だけど、愛とか。愛ってくるとその先に結婚が待ち構えてる気がして私からは『愛してる』なんて言ったことない。




 勿論、ミィコからも聞いたことない。だから、ミィコが愛してるかどうかなんて……




「そ、そう……?」

「そうよ! 愛してなかったら、一緒に住んでるのにそんなにたくさんえっちしないでしょ! それに何? 家事も手伝ってくれて四六時中一緒にいるってなかなかないよ? それでも苦痛じゃないってそれはやっぱり愛されてるし、相性がいいってことだと思うよ」




 カァァ、と赤くなる私に「愛されてるって自信、持ちなさい。由比子ちゃん」と言って頭をナデナデしてくれるあずちゃんは同い年なのにお姉さんみたいだ! 



「幸せいっぱいの顔してるとこ悪いんだけどさ」



「え?」

「私、そういえば彼氏と結婚するから」



「へ、へぇ~」



 唐突なあずちゃんの結婚宣言に気の利いたことを言えない私は僅かに頬が引き攣っている。だってあずちゃん、結婚、とか。今、私幸せみたいだけど、焦っちゃうよ……?



「なんか言うことないの」

「あ、あずちゃん、結婚おめでとう!」



 寂しい、とかいう言葉は飲み込んだ。また独身がひとり減るな、なんて寂しい考えはやめておこう。あずちゃんが幸せになるのだから。


「ありがとう、由比子ちゃん」

 にっこりと笑うあずちゃん。改めて幸せを噛み締めていた私だったけど一番の幸せ者は目の前にいる親友のあずちゃんだったみたい。



 おめでとう、あずちゃん。幸せになってね。



由比子編 end
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