にゃんこ男子は鉄壁を崩す
恋をしてる暇があれば仕事に生きる女、相楽 由比子
今日もギリギリになって家を出た。エレベーターに乗り込むと閉まろうとする扉に手がかかり、私は驚く。だってその手は昨日、私が手当てした手だったから。
「はぁー、間に合った」
途端に気まずくなって俯く私を覗き込む小宮さんを私は無視した。
「…………」
「お姉さん、おはよ」
私の顔を覗き込みながらにっこりと笑う彼。無造作にセットされた茶色の髪が目に掛かり、少し首を傾げて言うこの姿勢が少し可愛い。
いや、外見だけだから。中身は全然可愛くない。私が無視していたにも関わらず、昨日、あったことがなかったように挨拶するこの人が本当にわからない。猫みたいに気まぐれで意地悪なのかと思ったら、今みたいに優しい笑顔をくれる。
「……いい加減、お姉さんとかやめてくれません? 一応相楽 由比子という名前がありますから」
お姉さん、と言われるとその意味の中に『オバサン』が含まれているような気がして少し嫌だったのだ。
「あ、そっか。じゃ、『由比子』って呼ぶね。俺、小宮 勝登。ミィコって呼んでよ。皆、そう呼んでるから」
な、いきなり、呼び捨て?