にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 しかもミィコ……って……


「は? あなた女なの?」

 ミィコの呼び名が強烈で私を呼び捨てにする件は流れてしまった。可愛い綺麗な顔を近づけすぎる彼に緊張した。私は男に対して警戒しすぎるせいか、あんまり男に免疫がなくて至近距離に男がいると誰にでも緊張してしまう。

 特にこんな密室では。手は汗ばんで『早く1Fについてくれ』と願うばかりだ。


「あー、いや、違う違う。いいから呼んでミィコって」

「…………」


「ほらほら、せーのッ!」

 『せーの』と掛け声を掛けた彼の口が既に一緒に言おう、そんな感じで『ミ』の口の形をしている。どうやら言わないとこの至近距離にいる顔をどけてもらえそうにない。

「「ミィ……コ」」


 よ、呼ばされた! 


 それと同時にチーンとエレベーターの扉が開く。


「由比子! 早くしないと会社遅れるよ! 俺も工房に行くの遅れるから急ごうよ!」


 ホントだ! 早くしないと電車に乗り遅れる! 遅刻は絶対したくない! 一社会人として遅刻は厳禁よ! それに……あずちゃん恐いし!


「あ、えと! うん!」

 何故か彼と駅まで走った。手を取り合って。

 どうしてだろう。昨日はあんなに険悪な雰囲気だったのに。



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