Holy Night Kiss
孤独な彼
「私はそんな軽い女じゃないのよ」
そう言わんばかりに、差し出した俺の手を軽くはたく。
探るように真っ直ぐ見つめる、大きな瞳。
元は白かったのか?
薄汚れたグレーの毛皮をまとい北風吹きすさぶ公園に佇む君。
もうすぐ日が暮れる。意地を張らずに一緒においでよ。
寒くて、誰かに気付いてもらいたくて、泣いていたのは君だろ?
もう一度手を差し出すと、君はおずおずと、俺の手を受け入れた。
俺はコートの中に君を包み込む。
安物の薄っぺらいコートでも君を暖めるくらいはできるよ。
本当は彼女と一緒に見るはずだったイルミネーションを君と一緒に一巡して、家に帰ったら不要になったシャンパンを開けよう。
新品のフルートグラスに注いで、君との出会いに乾杯。
君にはミルクだけどね。
コートの中をのぞき込むと君はすっかり安心してのどを鳴らしていた。
君との奇跡のような出会いに感謝して。
聖夜の鐘の音を聞きながら、俺は君の鼻先に口づけた。
(完)