追憶の灰
見慣れた街並みに入ると、懐かしさに心が弾む。

その景色のどれにも、陽斗との想い出が寄り添っていた。
胸が温かくなって、
…大丈夫。きっと大丈夫…
底知れぬ不安を拭い取るように、何度も心の中で唱える。


住宅街に入り、タクシーはとうとう、一年ぶりの我が家に到着した。


「一年でも、やっぱり懐かしく感じるものね」

「そうだな。やっぱり我が家が一番落ち着くもんだな」

パパとママは懐かしそうに家を見つめて、笑った。


「ほら、光。荷物運んでおいてあげるから、陽斗くんに逢いに行ってらっしゃい」


「そうだな。後でパパ達も挨拶に行くから、先に行っておいで。もう学校から帰ってる頃だろう?」


「…うん」
ママが優しく私の背中を押した。
家へと入って行くパパとママの後ろ姿を見つめながら、家の前で立ち尽くす。


陽斗の家はすぐ隣なので、家は見えている。
再び襲ってくる不安を振り払いながら、重たい足を動かす。


ほんの数秒で着いてしまった陽斗の家の前で、今度はインターホンを押せず、落ち着かなくてウロウロしてしまう。


何度も何度も呼吸を整えて、やっと覚悟を決める。
インターホンを押そうと手を伸ばしたその時、
「家に何かご用ですか?」
ずっと聴きたかった懐かしい声が、私の身体を駆け巡った。
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