愛しの太ももサンタちゃん
もう誰もいない雪の中のレストラン。
店の隅にある窓際の一席だけ、テーブルセッティングがされている。
そこに当たり前のように池上さんが座った。
なぜかシェフと奥様は、池上さんとルカを交互に見ては、ご夫妻でとても嬉しそう。
「お飲物、お持ちいたしますね。ルカさんはワインは大丈夫ですよね」
「は、はい。好きです」
「池上は――」
「だめ。俺、車だろ」
わかりきったことだけれど、シェフの顔が残念そうに崩れる。
「そっか」
素っ気ない池上さんを見て、シェフもなにも話しかけずに行ってしまう。
料理が運ばれるまで、二人きりになる。
雪のクリスマスイブ。
突然のお誘い。ずっと昔に憧れていた大人の先輩から。
雪の町の、真っ白な平原にある可愛いレストラン。人がいなくて貸し切り。
こんなに素敵な状態なのに。
ルカは困っている。どうしてこうなったのかと。
元々、仕事以外に会話ができない人。
だからルカは諦めた。