愛しの太ももサンタちゃん

 いまだって連れてきてくれたのは彼なのにぜんぜんしゃべってくれない。
 この人ってこういう人――と、ルカも静かに黙って、彼の横顔を確かめるだけ。

 ずっと前に諦めた先輩だけれど、いまだってふとした瞬間にドキドキする。
 年上だし、真面目すぎて、いつも怖い顔をしていて、ひとこと多い。
 そんなお兄さんだけど、仕事をしている彼の目が好き。横顔が好きで。社会人になったばかりの頃、ぱりっしたワイシャツに、いまどきのネクタイをしてる大人の池上さんを見る度にドキドキしていた。

 だけれど、いつも仕事の話ばかり。
 ちょっとそれらしい話題を振ってみると、仕事中にそんな話題を出すなといわんばかりに冷めた目で見下ろされ、決してその話題には乗ってくれなかった。おふざけにものってくれない。

 そのうちに、彼は自分には大人すぎて。そしてルカは子供ぽくてオバカさんにしか見えないんだと諦めた。
 彼には大人にふさわしいプライベートがあって、ルカはそれを知ることはできないし。そしてルカは相応の同年代カレシが気楽でいいのだと。

 でも。その同年代のカレシもまたしっくりしないの繰り返し。
 思うような男性に出会えない。
 今年もクリスマスはひとり。そう思っていたのに。

 手に届かないと思っていた人が、急に手が届きそうなところにいて、でもただの慰労で連れてきてもらっているだけだから、届きそうでやっぱり手に届かないのだろう。

 かえって、寂しくなる。
 仕事の時とおなじ、仕事以外の話ができない。

 シェフがワインを持ってきた。

 目も合わせず、ただ黙っている二人を見て苛ついているようだった。

< 12 / 18 >

この作品をシェア

pagetop