愛しの太ももサンタちゃん
「航太。おまえ、相変わらずだな。見ていて腹が立つ。なんなんだよ、まったく」
気が利かない男だと、友人として諫めているのかとルカは思った。
「おまえが言えないなら、俺が言う」
シェフがそう切り出した途端に、池上さんの顔つきが変わり、初めてルカの正面へと眼差しを向けてくれた。
「ふたりきりにしてくれ」
「わ、わかった」
ルカのグラスにだけワインを注ぐとシェフが下がっていく。今度は心配そうな目を肩越しに残して。
「いきなり、こんな雪深い町に連れてきて悪かった」
「いいえ。近場かと思っていたので驚きましたけれど。こんな素敵なお店に連れてきてくださって、ありがとうございます」
お礼を言うと。またその後、池上さんがうつむいて黙ってしまった。
遠くカウンターでは、シェフと奥様がもどかしそうにこちらを見守っている。
なに。この空気。
ただ同僚を連れてきた雰囲気ではない。
しかも。池上さんが、いつもの無愛想さとはなんか様子が違う。