愛しの太ももサンタちゃん

 よし。そうなったらとことん働こう。
 クリスマスは稼ぎ時! そして働き時、ルカの場合は。

 地下鉄にJR、JRタワー。数々の百貨店がひしめき合う北の都市。
 駅の地下街にはたくさんのショップがずらっと整列する。

 その中の一店舗、ベーカリーショップ。
 ルカはパン屋の売り子。ホールスタッフ。

 老舗パン屋。郊外に古い本店があって、市内に五店舗。
 社長の念願かなって、駅地下に店舗を出すことができた。

 昼時になると、ビジネスマンにOLさんに、ショッピングにきた主婦で店内はごったがえす。レジにも長蛇の列ができる。
 店内には小さなイートスペースも設置してるので、そこでパンをドリンクと一緒に買って食べていく客も多く、とにかくいちばん忙しいとき。

 でも、こんな忙しさは慣れた日常にすぎない。
 いま本当に忙しいのは『クリスマス商戦』!

 十二月に入ってから、地下街は人人人で溢れる。冬休みになると可愛らしい高校生が出歩くようになり、また人が増える。
 ルカのベーカリーショップも大繁盛だった。

 昼のピークが過ぎ、チーフが追加で焼き上げたパンを、次の夕方の来客に会わせて店頭にそろえているときだった。

「お疲れさん」

 黒いハーフコートに、スーツ姿の男性が店に現れる。
 本店営業部の池上航太。五歳年上の先輩。
 いつもそう、眉間にしわをよせて、きつい目つきでやってくる。

 でも。ルカが新人の頃からしばらくは、恋焦がれた人だった。

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